山之口貘

高田渡に引き続き、今度は詩人の紹介をしたいと思います。山之口貘という沖縄出身の詩人です。ずいぶん昔の人なんですが、高田渡の歌にはこの人の詩を歌ったものが少なくありません。

芸術は素晴らしい、としみじみ思うのは、先日引用した草枕で夏目漱石がいっていたように、世のしがらみをひと時離れて、本質と向き合うことができるからだなあと感じます。


座蒲団   

土の上には床がある
床の上には畳がある
畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽という
楽の上にはなんにもないのであろうか
どうぞおしきなさいとすすめられて
楽に座ったさびしさよ
土の世界をはるかに見下ろしているように
住み馴れぬ世界がさびしいよ

〜詩集『思辨の苑』1938(昭和13)年より〜


生活に困っていた時期の多い彼は、その様子を隠すことなく、身の丈でたくさんの詩を書いています。芸術で暮らすのは簡単ではなく、時代のせいもあって、浮浪者として16年間暮らしていたそうです。しかしその間片時も詩を書くことはやめなかったと言います。そんな彼が、座布団の上に座るとき、こういうことを考える。私たちの生活にも似たようなことが言えるのではないか、そう感じます。


借金を背負って(1951年)

借りた金はすでに
じゅうまんえんを越えて来た
これらの金をぼくに
貸してくれた人々は色々で
なかには期限つきの条件のもあり
いつでもいいよと言ったのもあり
あずかりものを貸してあげるのだから
なるべく早く返してもらいたいと言ったのや
返すなんてそんなことなど
お気にされては困ると言うのもあったのだ
いずれにしても
背負って歩いていると
重たくなるのが借金なのだ
その日ばくは背負った借金のことを
じゅうまんだろうがなんじゅうまんだろうが
一挙に返済したくなったような
さっぱりしたい衝動にかられたのだ
ところが例によって
その日にまた一文もないので
借金を背負ったまま
借りに出かけたのだ


読んだらそのまま情景が分かる。すごく深刻で大変な状況なのが見て取れるんだけれども、詩を読むと、彼の精神は荒んでいない。貧乏でも金持ちでも、借金があってもなくても、土の上でも座布団の上でも、山之口貘はそのまんま山之口貘なんだと、彼の人間を感じます。

そのまんまは難しい

「そのまんまでいいよ」という本を中学生のころに読んだことがあります。ブッタとシッタカブッタという4コママンガのシリーズです。
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このマンガはとっても面白くて、何度読み返してもためになる。今も私の実家の本棚には3部シリーズが全部置いてあります。ブッダを模したブタこと「ブッタ」が、悩めるブタ「シッタカブッタ」と一緒に人生の悩み事を色々考える本です。

色々な名言が飛び交います。

自分の価値を押し付けるブタ

「勉強しなさい! いっぱい勉強していい学校へ入って いい会社にはいるのよ!」
「それからどうするの?」
「また、がんばって、エラくなるのよ」
「エラくなったら、どうなるの?」
「お金もちになったりして、シアワセになるのよ」
「シアワセって、そんなに先にいかなきゃないの?」



本当のボクという言いわけ

「本当のボクをみんなわかってくれない・・・」
「本当のあんたってどこにいるの?」



不幸を消す

幸福と不幸を2つに分けることをやめると 
不幸は消える 
ただ幸福も消えるけどね



振り返ると、色んな人が色んな言葉で、ありのままの大切さ、価値に多様性を持たせることの大切さを語ってきた(今この瞬間もたくさんの言葉が発されている)と感じます。あらそいごとの根っこには、「受け入れないこと」があります。どう頑張ったって受け入れ難いものもありますが、よく考えるとそれはごくごくわずかな気がします。自分のしてきた「あらそいごと」を振り返ると、何とまあ心の狭いこと、と思うことも少なくありません。もちろん文化ってのは、受け入れられるものとそうでないものを複雑に紡いできた歴史でもありますから、多様であればいいってわけでもないのですが・・

今日は最後に老子の二章を引用して終わります。

天下皆知美之爲美。斯惡已。
皆知善之爲善。斯不善已。
故有無相生、難易相成、長短相形、
高下相傾、音聲相和、前後相隨。
是以聖人、處無爲之事、行不言之教。
萬物作焉而不辭、生而不有、
爲而不恃、功成而弗居。
夫唯弗居、是以不去。

天下みな美の美たるを知るも、これ悪のみ。
みな善の善たるを知るも、これ不善のみ。
故(まこと)に有と無と相生じ、難と易と相成り、
長と短と相形(あらわ)れ、高と下と相傾き、
音と声と相和し、前と後相随(したが)う。
ここを以て聖人は、無為の事に処(お)り、
不言(ふげん)の教えを行なう。
万物ここに作(おこ)るも而(しか)も辞(ことば)せず、
生じるも而も有とせず、為すも而も恃(たの)まず、
功成るも而も居らず。
夫れ唯だ居らず、ここを以って去らず。