医療過誤という言葉を聞いたことはありますか。
医師が医療ミスを犯し、患者が死亡したり、重篤な後遺症を残したりしてしまうという問題です。
この問題について考えてみましょう。

紛争予防の観点

弁護士1年目から3年3ヶ月間、医療過誤(患者側)の事件を多く扱う事務所に勤務していました。

患者や遺族から相談を受け、医療事故調査事件として受任します。
医療事故調査として行うことは次のようなものです。
・診療記録(カルテ等)から事実経過を洗い出す。
・患者や遺族から事実関係を聴取する。
(診療記録との齟齬がないかの確認)
・医療文献を調査する。
(医療水準の確認)
・協力医師に意見を聞く。
(医療水準の確認)
・医学的な問題点を法律的に検討する。

医療事故調査の結果、法律的に「過失」と判断される場合には、
患者や遺族からの依頼があれば、医療機関に対して損害賠償請求をします。

ある医療事故調査事件で、「過失」の判断がつかず、上記の作業を何度も繰り返していました。

そんな中、代表弁護士からのアドバイス

「医療機関の過失を考えるのではなく、どうしたら医療事故の結果を防げたかを考えろ」

目から鱗でした。

つまり、医療機関のミスを探すのではなくて、どうしたら結果を防止することができたかということを考えるのです。そして、結果を防止することができた方法が分かったら、次に、その方法が採られなかった理由を検討するのです。そして、最後に、その方法を採らなかったことについて(実際に選択された医療行為についてではなく)「過失」と判断できるかを考えるのです。

言われてみれば簡単なことです。だから目から鱗でした。

紛争予防法

どうしたらその結果を防ぐことができたかを考えることは、紛争予防法を考える出発点です。
結果は出てしまっているので、事後的な考察になります。
将来に向かって同じ結果が発生しないようにという意味の「紛争予防」です。

経験から学ぶということであって、とても自然な考え方です。

是非、実践したいものです。

医療事故と呼ぼう

3年3ヶ月を過ごした後、事務所を移り、医療機関側で仕事をする機会にも恵まれました。
すると一つの疑問が生まれました。

なぜ、初めから「医療過誤」と呼んでいるんだろう。

損害保険の分野で交通事故(保険会社側)の仕事をする機会も多く、交通事故との比較をしてみました。

交通事故は、大半の場合、訴えられた側には過失があります。
もちろん過失がないと判断される事案もありますが、裁判になるケースでは大半が訴えられた側に過失があり、その過失の程度が争点になっています。
それでも、交通過誤事件なんて呼びません。

医療事故では、訴えられる医療機関側(担当医師等)にそもそも過失があるかが争点になることが多く、交通事故に比較して医療機関の責任が否定されるケースも多いと思います。
それなのに、医療過誤事件と呼んでいます。
訴える側からすれば、医療機関に過失があることを理由にして訴えていますから、医療過誤訴訟と呼ぶことに抵抗はないのはよく分かります。

でも、私は、このことを考えて以降、医療事故事件と呼ぶようにしました。

不思議なもので、言葉を変えると、事件の捉え方、事実の捉え方も微妙に違ってくると感じます。

フェアな議論

医療事故は患者が死亡したり重篤な後遺症を負ったり、痛ましい結果を生じているケースが多くあり、患者や遺族に大きな苦痛を与えます。

他方、訴えられる医療機関、担当医師、担当看護師などにとっても、明確な医療ミスでないケースでは、非常に大きな苦痛を与えるものとなります。

医療機関と患者を比較した場合に、カルテ等の証拠が医療機関側にある問題、医学的な知識量の違いなどアンフェアな部分については、裁判ではクリアする方法があります。
(裁判外でも、カルテ開示の制度がありますし、医学的な知識量は協力医などで補うことになります。)

医療機関も患者もフェアに問題を解決するプロセスが求められていると思います。

そのプロセスの中で、医療機関も患者も、
「どうしたら医療事故の結果を防げたか」について
フェアに議論をすることが望ましいと思います。

起きてしまった医療事故について、
過失の有無を考える上でも、
再発防止策を考える上でも、
「どうしたら医療事故の結果を防げたか」という視点は正しい視点です。

重い結果を目の前にして、紛争を解決しようとするのですから、シンプルで正しい視点が必要です。

まず、どう行動したらいいの?

医療ミスじゃないのか!?どう行動したらいいか分からない。

まずは、カルテ開示請求をしてください。医療機関の受付に行って尋ねれば用紙をもらって手続が出来ます。
自分で疑問点があれば、医療機関(担当医師)に質問しましょう。
「専門的でよく分からない」と投げ出さず、自分も努力して医療機関(担当医師)とディスカッションする姿勢が必要です。

どうしてこんな身体になったのか?と尋ねたい気持ちは分かりますが、
こんな身体にならずに済む方法はなかったのか?という視点でディスカッションする姿勢が必要です。

あと、決して、医療機関(担当医師)を侮辱したり、感情的に攻撃したりしないことは守って下さい。
そのような姿勢では、「どうしたら医療事故の結果を防げたか」は明らかになりません。